『呪われた家の秘密』
2025/01/11
『呪われた家の秘密』
※この物語はフィクションです。
第1話:プロローグ – 売れない物件
「田中君、この物件、君に任せるよ。」
上司の木村が、分厚いファイルを田中のデスクにドンと置いた。田中は、不動産エージェントとして働き始めてまだ半年の新人だ。まだ仕事に慣れない彼に、突然、難しい案件が降りかかってきた。
「これは……?」
田中がファイルを開くと、そこには古びた屋敷の写真が何枚も貼られていた。重厚な木製の扉、ひび割れた壁、鬱蒼と茂る庭木……見るからに時代を感じさせる物件だった。
「この屋敷、実はもう10年以上も売れ残っているんだ。」
木村が腕組みをしながら続ける。
「誰も手を挙げない。内見に来る人はいるけど、契約まで至らない。何かしら理由があるんだろうな。」
田中は眉をひそめた。
「何か問題のある物件なんですか?」
「噂があるんだよ。この家に関わった人は、必ず姿を消すって。」
その言葉を聞いた瞬間、田中の背筋に冷たいものが走った。
「姿を……消す?」
木村は苦笑いを浮かべる。
「まあ、ただの噂だ。でも、こういう話が広まると物件は売れなくなる。気味が悪いってな。」
田中はファイルの最後のページに目をやった。そこには、最新の物件情報が記されている。
物件名:古峯町の旧家屋所在地:古峯町3-12-6築年数:120年以上価格:応相談
「売れれば君の手柄だよ。逆に、売れなければ……まあ、そういうことだ。」
木村は軽く肩を叩き、去っていった。田中はファイルを手に取り、ため息をついた。
「……売れない物件か。」
翌日、田中は早速、問題の物件を訪れることにした。
屋敷との出会い
古峯町にあるその屋敷は、周囲の景色から浮いて見えた。他の住宅は比較的新しいが、その屋敷だけが時間から取り残されたかのように佇んでいる。
門扉を開けると、ギィ……という不気味な音が響いた。庭には雑草が生い茂り、風に揺れる木々がざわざわとささやいているように感じる。
「これが……10年以上売れ残っている家か。」
田中は意を決して玄関へと向かった。重い扉の前に立ち、ゆっくりとノブを回す。
——ギギ……
扉が開いた瞬間、冷たい空気が田中の頬を撫でた。
「誰もいないはずだよな……。」
田中は玄関ホールに足を踏み入れた。天井は高く、古びたシャンデリアがゆらゆらと揺れている。薄暗い廊下が奥へと続いており、その先には何も見えない。
「こんにちはー、田中です。不動産会社から来ました。」
無人のはずの屋敷に声をかける。返事はない。
だが、廊下の奥から、かすかに声が聞こえた。
「……お待ちしていました……」
田中は耳を疑った。
「……今の、何だ?」
確かに誰かの声がした。しかし、この屋敷には誰もいないはずだ。田中は恐る恐る廊下の奥へと歩みを進めた。
——その瞬間、足元の床がギシッと音を立てた。
「うわっ!」
思わずバランスを崩し、田中は床に手をついた。立ち上がろうとしたその時、廊下の先に、何かが動いたのが見えた。
「誰かいるのか?」
田中は声を上げた。しかし、返事はない。
「気のせい……か?」
立ち上がった田中は、廊下の奥に進むのを一瞬ためらった。しかし、ここで引き返しては、仕事にならない。そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。
廊下を抜けた先には、大きなリビングルームが広がっていた。古い家具が埃をかぶったまま置かれ、窓から差し込む光がぼんやりと部屋を照らしている。
「まるで時間が止まったみたいだな……。」
田中が部屋を見渡していると、ふと壁に飾られた古い写真が目に入った。
——写真の中の人物たちは、皆こちらをじっと見つめているように見えた。
その中に、一枚だけ異様な写真があった。家族写真と思われるそれには、中央に立つ人物の顔が、黒く塗りつぶされていたのだ。
「……何だ、これ……。」
田中が写真に近づこうとしたその時——
バタン!
突然、背後の扉が閉まった。
田中は慌てて振り返った。
「誰だ!?」
しかし、そこには誰もいない。風の音が廊下を駆け抜けるだけだった。
「お待ちしていました……。」
再び、誰かの声が聞こえた。
田中はゆっくりと振り返り、リビングルームの中央を見た。
そこには——
黒い影が立っていた。
~~~ 続く ~~~