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『時の闇に消えたアパート』

『時の闇に消えたアパート』【第1章 闇の呼び声】①

2025/01/19

『時の闇に消えたアパート』
※この物語はフィクションです。

【第1章 闇の呼び声】


 深夜、窓の外からかすかな雨音が聞こえてくる。街灯に照らされた外の景色はぼんやりとして、どこまでも重苦しく感じられた。そんな中、俺――式部(しきべ)は机の上に広げた書類の数々に目を落としていた。書類には「アパート管理・調査依頼」と大きく印刷されており、依頼主であるアパートのオーナーの名前が記されている。かすかににじむインクの跡からは、依頼文が急かされたように書かれたことがうかがえた。
 俺は、建物の管理や保全状況を調査する仕事をしている。と言っても、別に華やかなものではない。老朽化した建物の修繕点検や、入居者が減った物件の原因究明をするのが主な業務だ。まるで探偵めいた響きだが、実際は地味な調査と書類作業がほとんどで、そこにワクワクするようなドラマはない。いつもの仕事と同じように捉えていたはずなのに、この案件には、なぜか最初から不吉な予感がまとわりついて離れなかった。
 というのも、俺が依頼を受けたアパートは、数年前から突然住人が減り始め、最近ではほとんど空室になっているという話だった。アパート自体は比較的新しい建物で、外観もそれなりに綺麗だと聞いていた。しかし、「不可解な現象が相次ぎ、次々と人が出て行ってしまった」という噂が絶えない。建物内部で正体不明の音がする、夜中に奇妙な足音が聞こえる、窓の向こうに人影が立っているのに誰もいない――そんな怪談めいた話が事実であるかのように囁かれているのだ。しかも、立て続けに3人が失踪してしまったという情報まで飛び込んできた。警察の捜査は進んではいるらしいが、手がかりが一向につかめていないとか。
 オーナーから直接電話をもらった際、その声はどこか怯えたようだった。「――どうか、調査と対策をしてほしいんです。このままじゃ、アパートが終わってしまう」。そう言いながらも、彼は妙な表現を使った。「ここには“何か”がいるように感じる。俺にはもうどうしたらいいのか分からないんです」。まるで、目に見えない恐怖の存在が建物を蝕んでいるかのような物言いだった。そして最後に、切羽詰まった声でこう付け加えたのだ。「元々この土地には古い祠(ほこら)があったらしいんですが、先祖の誰かがそれを壊してしまったという噂もありまして……。それが原因かどうか、確かめてほしいんです」。オーナー自身も定かではない情報のようだったが、話の真偽よりも、そこには強い焦燥感が感じられた。
 それから数日後、俺はアパートへ足を運ぶことにした。とある地方都市の外れに位置するそのアパートは、車で街の中心部から少し走った場所に建っている。周囲には広い空き地や雑木林のようなものが点在していて、夜になれば街灯も少なく、まるで街の闇から切り離された一角のように感じられる。
 初めてそのアパートを目にしたとき、正直、築年数はそう古くないはずなのに、外壁は何か重苦しく汚れが染み付いたように見えた。うらぶれた雰囲気が漂っている。玄関先には雑草が生え放題で、手入れが行き届いていない様子がありありと分かった。人の気配はほとんどなく、人気がない。入口のドアを開けると、廊下には薄暗い照明が点滅を繰り返していた。
 空気が妙に冷たい。季節はまだそこまで寒くないというのに、アパートの中に一歩足を踏み入れた瞬間、ぐっと温度が下がったような感覚に襲われる。乾いた腐葉土のような匂いもかすかに混じり、不安をかきたてられた。管理人室に向かうと、そこにはアパートのオーナーが待っていた。背は低めで小柄な男性だ。仕事でのスーツは着ておらず、やや疲れた顔をしている。彼は俺に気づくと、安堵なのか落胆なのか、複雑な表情を浮かべた。
 「わざわざありがとうございます。実は、この建物は表面上は平凡なんですが……内部がどこか、おかしいんです。何と言えばいいのか……」
 オーナーの声は震え気味だった。彼は定期的にアパートを巡回しているはずなのに、まるで自分の家に帰ることすら躊躇してしまうかのような態度だ。俺はまず、彼から鍵を受け取り、全ての階をざっと見て回ることを提案した。今どれくらいの部屋が埋まっているのか、あるいは空室がどの程度あるのかも確認したかった。

~~~ 続く ~~~


札幌市北区で空き家の売却

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