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『時の闇に消えたアパート』【第1章 闇の呼び声】③

『時の闇に消えたアパート』【第1章 闇の呼び声】③

2025/01/21

『時の闇に消えたアパート』
※この物語はフィクションです。

【第1章 闇の呼び声】③

 その夜は結局、まともに寝つけなかった。微睡みに落ちそうになるたび、廊下の遠くから物音がするのだ。それは人の耳を掠めるほど小さな音だったり、逆に床を大きく蹴るような音だったりと、規則性がない。まるでアパート全体が生き物のように脈動しているかのような、不気味な感覚が俺を襲う。それでもなんとか朝を迎える頃には、音はすべて収まり、冷たい静寂だけが残った。
 翌日、オーナーは昨夜の物音について俺に尋ねてきた。「何か気になることはありませんでしたか?」――どうやら、オーナーも夜中に階下で奇妙な音を聞いたらしい。俺は正直に昨夜のことを伝えると、彼はますます不安な顔つきになる。「すみません……この状況、どうすれば解決するのか私にも見当がつかないんです」。彼の声はかすれていた。
 俺は少し考えてから、「部屋の一つひとつを詳しく調べてみます。もしかしたら原因が物理的なところにあるかもしれない」と提案した。オーナーは困惑しながらも賛成してくれた。調査のため、昼間はできるだけ空室を見回り、夜は様子を観察して記録する――そう決めて、俺は動き始めた。
 アパートの3階は、構造上外からの侵入が少ないので昼間は見落としが多い。だからこそ、じっくり調べるには最適だと思い、まずは3階に上った。そこには四つの部屋があったが、オーナーの話ではすでにすべて退去済みらしい。廊下に立つと1階や2階とはまた違った雰囲気で、天井が妙に低く感じられ、圧迫感がある。照明も故障気味なのか、点いたり消えたりを小刻みに繰り返している。
 3階奥の部屋に入った瞬間、俺は言いようのない寒気を感じた。もちろんエアコンは切られたままで、窓は密閉されている。にもかかわらず、外の空気よりも明らかに低い温度が部屋全体を包んでいるようだ。床板も硬く冷たく、立っているだけで足元から冷気が迫ってくる。
 部屋の中を懐中電灯で照らしてみると、奥の壁に何か飾り棚のような突起があることに気づいた。近づいてみると、その上に奇妙な木彫りの置物が鎮座している。小さな人形というか、仏像とも違う、異様に歪な形をした像だった。手足のような突起が粗雑に削られ、顔立ちもはっきりとは分からない。何やら恐ろしげに口を開けているようにも見えるし、苦痛に歪んだようにも見える。一見してただならぬ負の気配を感じ、その場で息が詰まる思いがした。
 ――誰の私物だ? 退去した住人が忘れていったのだろうか? それにしては、部屋の中に他の荷物は一切なく、この像だけが置かれているのは不自然だ。木肌は黒ずみ、ところどころにひび割れがある。俺は恐る恐る手に取ろうか迷ったが、触れると何かが起きそうな気がして、思わず引っ込めた。
 まるで像そのものが、ここに住む者すべてを睨みつけているかのように感じる。そして、像の根元には剥がれかけの紙切れのようなものが貼られていた。文字が書かれていた形跡があるが、ほとんど消えて読めない。ただ、かすれた筆文字の一部が「神」「忌」「祟」のように見えた。「神」だろうか? それとも全く違う言葉か? 俺にははっきりとは分からない。しかし、不吉な意味を孕んだ言葉であることは、直感的に感じ取れた。
 このアパートで一体何が起きているのか。数年前から起きている奇怪な出来事と、この木彫りの像に関連があるのかもしれない。とにかく、オーナーに確認せねばと思った。あまり長くこの部屋に留まっていたくない――そんな感情が強く湧き上がる。背後で廊下の照明がかすかに音を立てて点滅しているのが聞こえ、その周期さえも妙に胸をざわつかせた。
 部屋を出ようとした瞬間、「――ッ」と小さな音がして、手元の懐中電灯が一瞬だけ消えた。暗闇に支配され、視界が遮られる。俺は思わず息を飲む。頭の奥から血の気が引き、鼓動が大きく鳴り響くのが分かる。わずか数秒後に懐中電灯の明かりは戻ったが、その数秒間が異様に長く感じられ、何か後ろに立っているのではないかという妄想がかき立てられた。急いで部屋を出てドアを閉め、廊下に逃げ込んだ俺は、後ろを振り返ることができずにただ息を整える。今のは偶然だろうか? いや、どうにも偶然ではない気がする。アパートに宿る“何か”に監視されているような――そんな寒気が、肌に張り付いて離れなかった。

~~~ 続く ~~~


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